古稀日記 8月7日 【a superhero】

オリンピックのせいでニュースが減っている。私はBSワールドニュースでBBCとABCとKBSをチェックしているのですが、その枠までオリンピック中継になっていて、がっかり、というか怒り。オリンピックで良かったのは、勘九郎がトーチリレーで「いだてん」登場したこと、開会式を録画しておいたら海老蔵の「暫」が上原ひろみさんのピアノで見られたことです。

「暫」は荒唐無稽な荒事です。巨大な正義の味方が、巨大な太刀で悪者をやっつけるストーリーです。江戸時代の庶民は、團十郎が演じるスーパーヒーローに拍手喝采しました。神事の色合いもあり、正月公演で團十郎の睨みを見ると1年間病気をしないと言われました。初代團十郎が成田山に信仰して息子二代目を授かったので、市川家と成田山は縁が深く、團十郎見物と成田山信仰は重なっていきました。

海老蔵は昨年團十郎を襲名し、オリンピック開会式では團十郎として登場する段取りでした。コロナ禍で延期になり、現在も海老蔵であって團十郎ではないけれど、歌舞伎界の中心にあることに変わりはありません。私生活やお家の不幸が前面に報じられるけれど、海老蔵は実は唯一無二の存在で彼は歌舞伎そのものです。一座を持たない一匹狼なので、ゆかりのある役者や、後ろ盾のない役者を座組に入れ、時にはジャニーズアイドルを抜擢し、新しい客層を開拓しつつ自主公演や巡業を企画します。海老蔵の出る公演は全て完売になります。舞台で演じる海老蔵はオーラを放ち客の目を釘付けにし、幕間にちゃちゃっとブログを更新する不思議な人です。

「暫」の衣装はとてつもなく大きく重いものです。とにかく大きく見せるための工夫が詰まっています。30センチの継ぎ足(高下駄のようなもの)を履いて、あの長袴をさばきながら歩くには全身の筋力が必要です。市川家の紋「三枡」を染めた巨大な素襖(袖)には竹の張りが入っていて、着付けの塩梅が悪いと腕を動かすことも難しいそうです。

巨大で重く、複雑な拵えの着付けには、衣装方とお弟子数人が必要です。お弟子は普通は黒衣(くろご)を着て舞台に出て役者の世話をしますが、「暫」では最正装の紋付後見(もんつきこうけん)として登場します。開会式では、海老蔵が歩き始めると、お弟子4人がさっと立ち上がって海老蔵を追うのが見えます。 

4人がかりで衣装を肩脱ぎにし、

最後は素襖を広げて、大きい、大きい!

ピアノより大きいですよね。

昨年2月ワークショップツアーで名古屋に行ったら、デパートで團十郎襲名記念展をやっていました。ラッキー!「暫」の衣装が展示されていました。とにかく大きい。見入りました。

2年前、四国琴平の金丸座に行きました。昔の芝居小屋は小さかった!この装束でスーパーヒーローが花道を歩くのは、それはそれは眼を見張り心を奪われるものだったことでしょう。

(おせつ記)

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