古稀日記 2023年6月12日 【another booster shot】

土曜日(6月10日)に6回目のワクチン接種を受けました。前回5回目は昨年11月でした。もう体内には免疫は無くなっていますよね。副反応を考えると気が重かったのですが、接種するのが安全策と思いました。案の定、副反応が出ました。夜中は1時間ごとに目が覚めるし、明け方には身体がほてり37.9°でした。平熱が35°台の私には高熱です。カロナールを服用し、一日ぐだぐだしました。ひーさんは午後38.5°の高熱が出て、やはりカロナールを飲んでお昼寝しました。

私は「今は休まないといけない」という目安があります。それは編み物です。常に編みかけのものがあって、手が空くと数段編み進めます。この編み物を手に取る気がしないのは、身体からの警報です。そういう時は寝室のテレビに録画してある韓国ドラマを見ます。今回は「ナエ アジョッシ」と「チャングム」にお守りしてもらいました。

今朝は晴れ晴れと目が覚めて、検温すると35.4°でした。I’m back in the saddle! ここからは歌舞伎のことを書きます。

コロナが5類に引き下げられ、少しずつ規制が緩和されるのは、私のような歌舞伎ファンには喜ばしいことです。ところが一番大好きな猿之助がいない。5月18日の隼人代役の明治座夜の部を見た時は、これからは座頭不在の澤瀉屋を応援しなくては、と強く思いました。5月の明治座は若手が代役を務めて乗り切りましたが、6月はどうするのかと心配していましたら、壱太郎が代役になりました。

6月昼の部は「傾城反魂香」、通称「ども又」で、重度の吃音で生き辛い又平と、口八丁手八丁の女房おとくが危機を乗り越える、ちょっとファンタジー色(イリュージョンあり)の時代物です。猿之助は立ち役(男)も女形もこなしますが、私は猿之助の女形が大好きです。猿之助はおとく役を何度も演じていて、壱太郎は数年前浅草でおとくを演じるとき、猿之助に習いましたから、壱太郎の代役は当然でしょう。しかし、もともと夜の部に出ていて、昼の部切りの舞踊演目にも出ることになっていた壱太郎が昼の部最初の「ども又」に出るというのは、6月歌舞伎座が壱太郎奮闘公演になるようなものです。いまや、歌舞伎を守る、舞台に穴を開けないために、役者も関係者も必死になっているのでしょう。

歌舞伎の女形は化粧・カツラ・衣装という鎧をまとうことで男が誇張した女を演じます。歌舞伎を見始めた頃は、女形という倒錯エレメントに馴染めず、どう見てもおじさんにしか見えない脇役に目が行ってしまったりしました。ところが、猿之助が演じる女形には、何の抵抗もなく見惚れ、何度でも見たいと追いかけました。

猿之助は天才です。どうしたら観客が喜ぶか分かる鋭い直観があり、それを実現できる高い身体能力を備えています。演じている自分を俯瞰して冷静で知的なのに、とんでもないアクロバティックな「ケレン」もこなします。

壱太郎の演じるおとくは、猿之助に習った通り、たぶん完コピでしょう。もちろん演じる本人の味は前面に出ています。壱太郎は舞踊の天才で、台詞回しもうまい。しかし、美形ではない。女形を演じる役者にとって美形でないことは致命的です。猿之助は元々が女顔(亡くなったお母様そっくり)で、中高の小顔を白塗りにして紅をさすと美しい。そして、自分がどのように見えているか100%理解した上で演じています。

壱太郎は、愛する又平を見上げるとき顔をくしゃくしゃにしていました。ちっともきれいではないのでなんだか気の毒に思いました。同じ場面で猿之助はここまで顔の筋肉を動かさない。夫又平が筆を握りしめて固まってしまった指を一本一本ほどいてやりながら、夫を見上げるとき、観客の目に入るのは、おとくの顔です。猿之助は、そういうおとくの慈愛に満ちた表情を観客に見せます。それが、観客の求めるものだから。

おとくと又平二人の長い場面を見ているうちに、壱太郎は猿之助とは全く異なり、自分を俯瞰するどころか、役に入り込んで完全におとくという女になっているのだとわかりました。この目で見上げられたら、相手役はやられますね。数年前、尾上右近の自主公演で右近の相手役を演じたとき、右近は「カズさん、カズさん」とほぼ恋愛状態に陥りました。やられていたのだわ。

壱太郎は、傾城反魂香のおとくを猿之助の代役として歌舞伎座で演じるという重大な責任を果たしています。これからも、思いがけないお役が回ってくることでしょう。澤瀉屋の大きな力になってほしい。

コメント (6)
  1. えの字 より:

    せの字~!
    変わらぬ澤瀉屋(´▽`ʃ♡ƪ)、歌舞伎LOVEをお伝えくださってうれしゅうございます!!
    私は2020年12月歌舞伎座大歌舞伎にて又平=中村勘九郎、おとく=猿之助で拝見しました。その時の「傾城反魂香」が忘れられません。絶望の又平から由緒ある土佐派の名前を授かり大喜びする2人の舞がそれはもう、可愛らしく、歓喜とパワー溢れた二人が素晴らしかった。また絶望している又平を支えるおとくの健気さ、気の配りの人情がにじみ出る芝居でこれ程のゴールデンコンビがあるのかと思いました。

    当時、勘九郎がインタビューで語っています:おとくは、暗闇の中の一筋の光「又平として舞台に立ち感じたのは、夫婦の愛。猿之助さんが演じるおとくの手のぬくもり、感情、夫へのまなざしを思い出します。すべてを支えてくれるおとくでした。愛がこもっているからこその温もりです」

    どうでしょう、猿之助はしばらく比叡山へ回峰行修行に入り魂の起死回生を目指してもらうのは。澤瀉屋の再生を心から願っています。

  2. 外山節子 より:

    えの字〜!早速のコメントをありがとうございます。

    そうなんです。澤瀉屋の存続・再生が要です。私は2012年の「亀治郎の会」最終回を見て歌舞伎ファンになりました。猿之助にはどんなことがあっても舞台に戻ってきてもらいたいです。

  3. よりたん より:

    コメントが遅くなりましたが、私も長くかかっても猿之助の復帰を願っています。澤瀉屋もがんばって欲しいです。

  4. 外山節子 より:

    よりたん、コメントをありがとうございます。

    博多座で猿之助公演をご一緒に見たのは楽しかったですね。様々思い出しています。

  5. 小野 由紀子 より:

    節子先生の歌舞伎や猿之助に対する熱い思い、伝わってきました。節子先生のためにも、猿之助には戻って来て欲しいと思います。

  6. 外山節子 より:

    ゆきこっち〜!コメントをありがとうございます。

    全く情報が無いので、心配がつのるばかりです。生きていてもらいたいです。

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