古稀日記 2023年8月11日 【rising up to the occasion】

8月3日、尾上右近の自主公演「研の會」を見てきました。尾上右近は、天才肌の多い歌舞伎界でも群を抜くマルチタレントで、文字どおり複数の才能を持ち、その才能を具現化する見目と身体能力があります。「ひとたらし」で、出会った人がみな右近を好きになり力を貸そうとします。

父方の曽祖父は六代目菊五郎、母方の祖父は鶴田浩二、父は清元延寿太夫。芸能のDNAが指先まで詰まっている若者です。31歳。やっと自分の顔になったところです。ひとは、子ども時代、10代、20代と少しずつ変化して、30歳で成人し、自分の顔を得るというのが私の持論です。

最初に右近を見たのは、2012年「亀治郎の会」最終回の連獅子でした。襲名したばかりの猿之助が「亀治郎」時代に区切りをつけるために上演し、亀治郎を応援してきた歌舞伎ファンで満席でした。私は、このとき猿之助の親獅子に圧倒され、人が身体を動かして表現するのを見るだけで涙が出るという経験をし、速攻で猿之助後援会(カメプロクラブと名付けたファンクラブで敷居が低い)に入りました。

このときの仔獅子が右近で、最後の見栄で、なんという古風な顔立ちか!と思いました。あとで聞くと、「猿之助お兄さんについていくのがやっとで息も絶え絶えだった」そうです。澤瀉屋の振り付けは激しくて運動量が多いのです。

2015年に自主公演「研の會」を開催しました。猿之助は自主公演の開催方法を指南し、「吉野山」に特別出演して静御前を演じました。終演後の物販にも出てきて売り物のTシャツにサインしてくれたり、後輩を盛りたてました。右近は、後援会の運営方法も含め、猿之助の良いところを全部踏襲してきたと思います。

そして、ワンピース上演中の猿之助の大怪我で、ルフィーの代役を務め、世の中に広く知られるようになります。清元宗家の息子なので、栄寿太夫を襲名し、清本の唄い手としても正式に活動しています。テレビCMにも出るし、ちょっとした役でも、テレビドラマに出るし、「燃えよ剣」では松平容保をリアルに演じました。

右近の女形は声も良く、とてもきれいです。きれい過ぎて、文七元結の最後に着飾って実家に戻る場面では、傾城級の美しさでした。美しすぎるのも困り者。

今年の「研の會」は第七回でした。「夏祭浪花鑑」と「京鹿子娘道成寺」と、大きい演目を2つ並べました。このプログラムを二日間で4回こなすのは昇り竜期の右近の冒険と挑戦です。夏祭では半裸になっての立ち回りをスタイリッシュに決め、二役で女形も演じ、女形舞踊の最も難しい道成寺は1時間踊り続けます。カーテンコールに登場した米吉が「団七やって、お辰やって、団七やって水かぶって、その後道成寺。バッカじゃないのぉ?」と感嘆していました。言われた本人は「目立つの大好き」と客席の笑いを誘いました。

右近は月刊誌ECLATに「歌舞伎はモダンだ!」という歌舞伎演目解説を連載しています。見開きの片側は読み応えのある文章で、もう片側は写真です。歌舞伎の拵えの時もあれば、ハイブランドの洋服を着てのポーズもあります。スタッフが、右近に入れ込んでいるのが伝わってきます。私は毎号買って右近の連載をファイルしています。連載ページ以外は捨てます。

コメント (2)
  1. えの字 より:

    やはりお出ましになられましたか!ケンケンは色々なメディアに出没し歌舞伎界の広報担当していますね。レディースアデランスのコマーシャルで森山良子さん、清水ミチコさんと出られたのにはクスっと笑いましたが、「ひとたらし」を覗かせシニア層へのアピール上手です。ルフィーの代役からさらに飛躍し、今や大演目もこなし精力的に歌舞伎界を支えていますね。

  2. 外山節子 より:

    えの字〜!コメントをありがとうございます。猿之助さんは育てた若手は数多いです。ケンケンが歌舞伎界を牽引する大きな力になることは間違いありませんね。

    節子

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