韓国ドラマの時代劇が面白いのは、史実とフィクションを巧妙に組み合わせているからだと思います。脚本はよく練られていて、繰り返しの視聴に耐える、というか何度か見てやっと理解できることも多いほど、伏線が張られています。
史実とは何かというと、「朝鮮王朝実録」という韓国の公式の歴史書です。王のそばにずっと付いている史官が王の言葉と行動を詳しく記録した「承政院日記」(スジョンウォンイルギ)というものがあり、王が亡くなると編纂委員会が立ち上げられ、 承政院日記と公式文書等々を年月順に整理して書き表したものが「朝鮮王朝実録」です。
27人の王の26代高宗(コジョン)と27代純宗(スンジョン)については、植民地時代に朝鮮総督府が編纂したため、正式な実録と認められていません。しかし、初代太宗(テジョ)から25代哲宗(チョルジョン)までの実録は残っています。膨大な記録です。
朝鮮王朝は実録を4部ずつ作成して首都だけでなく地方都市に保管しました。戦火や自然災害を経て、奇跡のように1部が残ったのです。原文は漢文で現代人には理解できないので国家事業としてハングル翻訳版が製作されました。このハングル版を1日100ページずつ読んでも、読み切るのに4年半かかると、ある本で紹介されています。
この資料をシナリオに活用する韓国時代劇では、様々な場面で王が「実録」通りの台詞を言います。それってフィクションの中のリアリティーですよね。
ある映画で新入り役人が帳面と筆を持ってどこにでも随行し、筆を舐め舐め書き続けていました。「実録」「 承政院日記」について知って「あの人は史官だったのね」とわかりました。また、王が大臣たちと論議して物事を決めていく場面で、画面の隅にひたすら書いている人物が二人いるのも、全てを記録するためかとわかりました。国会中継を見ると数人の速記者がいるでしょう、あの人たちの朝鮮王朝バージョンですわ。
専制君主として1人で国を治める王にはプライバシーは皆無で毎日激務だったそうです。それについてもまた書きます。