初春大歌舞伎を観てきました。昨年10月に新潟で中村屋錦秋公演を見ましたが、歌舞伎座に行くのは、ほぼ1年ぶり。以前は毎月通っていたのですが、コロナ、そして猿之助の事件があり、歌舞伎への情熱が冷えていました。今月は夜の部で七之助が「女暫」を出すので、これは行かなくっちゃ、と温度上昇したのでした。
14日夜の部幕開きは「女暫」(おんなしばらく)。「女暫」は10年前、平成中村座(江戸時代の芝居小屋を模した800席の小さい劇場)で見て七之助の堂々とした演技と存在感に圧倒されました。それが、2000席の歌舞伎座に出るのですから、見ないとなりません。
「女暫」は「暫」の女性版です。「暫」は團十郎家の出し物で、ストーリーはあって無いようなご祝儀エンタメです。東京オリンピックの開会式で團十郎が巨大な拵えで登場しました。あれです。花道から登場する前に「し~ば~ら~く~!」と揚幕の中で大声を出すのですが、七之助の艶やかな声は、それ自体拡声器かと思うほどの音量でした。
特筆すべきは、おもだか屋の最年長寿猿さんが茶後見で登場したことです。昭和5年生まれの寿猿さんは出てくるだけで福です。多くの役者が昼も夜も何役も勤めるのですが、寿猿さんはセリフ無しの究極の「一役」でした。
夜の部切りは「女殺油地獄」(おんなごろしあぶらのじごく)。ダメ息子の与兵衛は、借金を返せず近所の油屋の若いおかみお吉に無心するのですが断られ、殺してしまいます。この殺しの場面は一面に油がこぼれている中でのたうちまわるので、何度も見たい演目ではありません。以前、七之助のお吉、猿之助のお吉で見ています。今回は、隼人と米吉。様式美なのにリアル、見入りました。全身びしょ濡れで花道七三に倒れ込み、起き上がって駆け出す与平の狂気を演じた隼人は、この役で一つステップアップしたようです。この演目は、お主と奉公人(上司と部下)、親子の情愛、異父兄妹、DV等々、このまま21世紀のドラマになります。

翌日の15日は昼の部。2つ目の「蜘蛛絲梓弦」(くものいとあずさのゆみはり)は、猿之助ファンになった2012年の秋に明治座で見たのが最初でした。猿之助の鮮やかな早替わり、そしてどの役でも姿がよくて演技が巧くて、夢中になりました。今回は尾上右近が主役で、猿之助より1役多い8役の早替わり。猿之助を慕う若手の一人である右近が猿之助でなければ演じられない役に挑戦したわけです。猿之助本人の指導があったに違いないという場面も多く、怖いもの知らずで身体能力の高い右近のために新たに考案されたと思われる離れ技も見られました。スッポンに飛び込むのを目の前で見て、あっけにとられました。最後に客席に挨拶する中で「おもだか屋仕込みの早替わり」と言及するなど、猿之助の舞台復帰への道を作っているように感じました。早替わりはF1レースと同じでクルーが待機して脱がせて着せます。おもだか屋のお弟子さんたちが裏で活躍したに違いないので、それも嬉しい歌舞伎見物になりました。